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memento mori『伊豆高原の家』
2010年 01月 20日 |
memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_524276.jpg『堀部安嗣「伊豆高原の家」と袴田京太朗「夜の誕生」「ECHO」を見る会』のレポートです。
今回は建物と彫刻の見学会です。ひとつの記事にまとめると長くなりそうなので、二つに分けて載せたと思います。

また、施主であるアートディレクターの森桜さんからブログ掲載の許可が出ましたので感じたことを正直に書きたいと思います。
当日は残念ながら堀部さんと袴田さんは不在でしたが、森さんが色々説明をしてくださいました。

まず今回、竣工後10年と言う節目の見学会ですが、これはとても意義のあるものだと思いました。
自分も良く見学会やオープンハウスに参加しますが、どれも完成直後で人の生活臭がしません。
飾りのイスやソファは置いてありますが、それはあくまで演出用。仮の姿です。
やはり、住宅(や別荘)は人が生活して家具や生活道具が雑然と置かれて本来の姿になると思います。
その雑然とした家(実際はとてもきれいでした...)をどこも隠すことなく見せて頂いた森さんには感謝致します。




memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5241589.jpgさて、まずは道路からの表情。
建築家が設計した建物と言うと往々にして周囲から浮いていて異質な存在のようになりますが、この建築にはそれがありませんでした。
道路からの距離や植栽の影響もあると思いますが、とても周囲と馴染んでいると感じました。

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5242587.jpg全景。
『建ち方』ではなく『佇まい』と言う言葉が非常に合ってる思います。
とても自然に何の違和感もなくスーッと自分の体の中に入ってくる...そんな感覚です。
基礎も含めて砂漆喰で塗られた小さな箱は、切り妻屋根とわずかに出た軒により固くて象徴的な箱の表情を崩しています。
砂漆喰の色は純白ではなく山吹色を少し入れているとのこと。

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5243770.jpg雑誌にはほとんど載らないアングル。
別荘と言う用途なので防犯上の意味合いもあると思いますが、開口部が少ないです。
数えてみると、玄関ドアを含めて全部で7ヶ。この数でもちゃんと住宅(別荘)として成立しています。

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5244754.jpg設計の要望として出されたうちのひとつが既存の石垣と石段を残すこと。
この5段程度しかない石段ですが、目に見えない結界を示しているようでした。

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5245786.jpg玄関を入って右側にある水廻り。ここは洗面、トイレ、脱衣室を兼ねています。
洗面カウンターは磁器タイル貼り、洗面器は実験用のSK105(TOTO製)、照明はフラットボール球。
鏡の左側に歯ブラシなどを収納するキャビネットを設けており、生活する機能は損なわれていません。

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_52599.jpg壁出しの単水栓。

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5252443.jpg1階水廻りの左側は寝室になっています。
寝室の開口部はこのスリット窓のみ。適度な暗さが落ち着きを感じさせます。
また、この寝室の天井のみ例外的に砂漆喰ではなく杉板貼り。

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5253545.jpg玄関正面に位置する階段を見上げます。
上部に袴田京太朗さんの『夜の誕生』があります。
この『夜の誕生』は『伊豆高原の家』の竣工と同時に置かれました。

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5261259.jpgメインとなる2階居間です。
階段を上り空間が開けた時、思わず息を飲んでしまいました。
ボリュームのある空間から比較して小振りな開口部からはきれいな光が差込みます。
最初は神々しい光のように感じていましたが、しばらくその場にいるとそのような感覚は薄れ、何か優しくて親近感のある光のように感じました。
また、天井は高いのですがとても心地の良い空間です。これは6年程前に見学した堀部さんの『牛久のギャラリー』でも同じ感覚を感じました。
しかし『牛久〜』は天井高さが2.25メートルと割と低め。ボリュームの全く違う二つの空間に同じような感覚を持ったのはたぶん『伊豆高原の家』のギリギリに絞った開口部の影響だと思いました。
開口部を小さくすると(住宅建築2000年9月号によると芯々巾で2,121ミリ、高さは1,950ミリ)、必然的に壁にあたる光の量が少なくなります。そうすると影の部分が大きくなり頭上が薄暗くなり重心が落とされる。その結果、ボリュームはあるが落ち着いた心地の良い空間になったのではと考えました。

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5262427.jpg今回の写真の中で会心の1枚。
この彫刻が『伊豆高原の家』の10年目に合わせて作られた袴田さんの『ECHO』と言う作品。

(この写真のみクリックすると大きくなります。)

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5263575.jpgダイニングテーブル越しにキッチン入口を見ます。
丸柱は屋根の棟木を支える棟持ち柱。天井高さは最高で3,600ミリ。天井は屋根勾配(3寸勾配)に沿って作られています。
後で気が付いたのですが、この住宅(別荘)には三種の神器のひとつであるテレビがありませんでした。またコンセントやスイッチも目立たなくされています。
テレビやコンセントやスイッチなど住宅(別荘)の記号となるようなものを排除することにより、空間の強さが増していると感じました。
(そう言えば外部にアンテナもなかったような気がします。テレビを設置しないことは森さんの希望かわかりませんが、別荘に来てまでテレビばっかり見ているのも仕方がないですし...)

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_527550.jpgメインの開口部からは遠く海が見えます。

memento mori『伊豆高原の家』_f0138807_5271632.jpg...と、ここで1時間の見学時間が終了です。
正直な所、もう少し見学時間が欲しかったです。ほんと名残惜しくてたまりませんでした。
しかし、日本の住宅建築を率先している堀部さんの建築を見学させて頂けただけでもありがたいです。

by taishi_mizoguchi | 2010-01-20 05:49 | □建物探訪 |
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